itworks/seventies/ トッピクス: 読書・鑑賞
17-08-24 前田寛治「メーデー」


この絵を見るために大阪からの帰り、小倉で途中下車した。 小倉にある北九州市美術館分館で 「昭和の洋画を切り拓くー佐伯祐三、前田寛治、里見勝蔵たちの若き情熱」展 (2017年7月14日~8月27日)があり、チラシでこの絵を知り、興味を持った。 労働者たちが拳をあげて隊伍を組み、赤旗を掲げたデモが画面の中心を占めている。 デモの列が後から湧くように続いている。 デモは橋のようなところを正面向いて向かってくる。 背景には二本の煙突の立つ工場のような建物が立ち、 橋の高欄、路面、両側の建物、空の雲、陽の光が絵の中心から放射線状に配置されて、 労働者たちの意志が堂々と迫ってくる。 前田寛治(1896-1930)、パリでセザンヌ、マネ、クルーベを研究し、1924年に描いた。
若き青年画家たちが「新しい日本の洋画」を目指した挑戦は、興味深いものでした。


17-06-30 入唐求法巡礼行記
一年以上かかってやっと『入唐求法巡礼行記』の上巻の最後のページについた。
比叡山の慈覚大師自覚円仁は、承和5年(西暦838年)6月13日、博多津を遣唐使船に乗って出港。
中国の揚州、五台山、長安を巡り、承和14年(847年)新羅船で帰国。
『入唐求法巡礼行記』は、この円仁の9年におよぶ求法の旅の日記である。


当初計画への天台山国清寺への旅行許可が下りず、帰国を命じられたが、帰国途中で遣唐使と別れ、 新羅人の助けを得、春を待って五台山に向かう。 中国・山東半島の登州府で、公験(五台山への通行許可証)を得、旅行中の食料(米弐石、麺弐石、油、酢、塩)の給付を受けた。 円仁は、弟子2人、従者一人と、贈られらロバ一頭に荷を積み、五台山までの約1270キロメートルを58日間で歩く。 出会った役人、僧侶、商人、宿、食事を通じて、当時の中国社会の有様を興味深く伝えている。 上巻は五台山に着くまでで、五台山を下り、長安に滞在してから帰国までは、下巻。 下巻を求め、読むことにしている。

17-01-05 岡崎京子展
岡崎京子展が天神IMSで見た。


新聞で『岡崎京子展 -戦場のガールズライフ』を知った。 少女マンガには縁がなかったものの、1980-90年代の都市の現実を果敢に見つめたというコピーに興味を持つ。
ちょうどこのころ 企業でひたすら働いていた自分が深く気にとめなかったことに この一人の若い女性が果敢に想っていたことを気づかせてくれた。

16-10-24 P.コーンウェル『死因』
P.コーンウェル『死因』(講談社文庫1996年)を読んだ。

この本は、うちの奥さんの愛読書のP.コーンウェルの<検屍官シリーズ>の一冊。
話は、米ヴァージニア州の海岸地方(米海軍の主要な海軍基地がある)で、潜水禁止地区で
発見されたジャーナリストの変死体の謎を州検屍局長のスカーペッタが追い、巨大な陰謀に
遭遇するというもの。

最初に読んだ訳者あとがきの中に、新しいテクノロジーとしてバーチャル・リアリティーと
ロボットが登場するとあり、著者は情報技術に詳しく、細部の調査に行き届いているので、
これに興味を持ち読み出した。
20年前のテクノロジーとはどのようなものだったのか?


FBIは'トートー'と名づけられたロボットと、人間が装着するゴーグルとデータグローブを 持っていたとなっている。 'トートー'は、グレー色の高さ1メートルたらずの四角の鉄の胴体で、その上にビデオカメラの レンズの一つついた半球状の頭部を載せ、脚は滑り止めのついたキャタビラー、腕には物を掴む ためのグリッパーがついている。 'トートー'は、コンピューターにケーブルで繋がっている。この接続に無線を使わないのは、 原子力発電所内部のように分厚いコンクリ-ト壁の中で通信を円滑におこなうためだと。、 ゴーグルとデータグローブもコンピューターにケーブルで繋がっている。 ゴーグルの中にはディスプレイ画面があり、'トートー'の眼の捉えたリアルの画像と、 コンピューターが送りこんだ建物の内部などのバーチャル画像などを合成した画像が表示される。 データグローブ(手袋)は指令をコンピュターに伝える道具で、グローブの中の指を一本曲げる 「前進」、二本曲げれば「後退」という具合にコンピュターを介して'トートー'に指令を伝える。 'トートー'を操作して、歩くこと、階段を登る・降りること、物を持ち上げて運ぶ・降ろすこと が出来る。 つまり、操作者は、手と指を使い、画面を見ながら、原子力発電所内部のモデルの中でも、 ロボットの眼のとらえるリアルの原子力発電所内部でも、ロボットが操作者の分身のように 自由に歩きまわり、行動することができる。 20年前では、遅延を解決するために、コンピューターのプログラムをC言語に書き換えなくては ならなかったようである。 しかし、この20年で、情報技術の発展は目覚しく、コンピューターの処理能力の向上、カメラの 精度向上、研究者・開発者の増加があり、ゲーム機向けのデータグローブの発売もあった。 最近、FBIが不審物を爆破するのに、ロボットを使っているのをテレビで見た。 バーチャル・リアリティーとロボットが、身近なにローコストでできるようになっている。 まさに福島原発の廃炉を実現するのは、決死隊やガンダムでもなく、このテクノロジーに違いない。 俄然、バーチャル・リアリティーとロボットに興味が湧いてきた。
12-04-30 松井孝典、「我関わる、ゆえに我あり」
 松井孝典著「我関わる、ゆえに我あり」集英社新書を読んだ。
この地球惑星物理学者の書いた本は、文章も平明で、新書で厚さも手ごろで、
短時間で読み終わることができた。

この50年の科学の発展・成果はめざましく、我々は多くの智見を得た。

即ち、
宇宙は、137億年前に誕生した。ビッグバンで、一つの点から誕生し、
今の広大・ほとんど無限の空間に成長した。
地球の誕生は、45.5億年前。
人類の誕生は、700万年。
人類が狩猟・採集の生きかたから農耕・牧畜の生きかたを始めたのが
1万年前。
農耕・牧畜の生きかたとは、いわば頭の上にある太陽から与えられる
エネルギーの範囲で人類が生活すること。
18世紀から19世紀にかけて産業革命が起きた。人類の生きかたは大きく変わった。
人間は、石炭、石油といった資源、地球が数億年かけて、内部に蓄積してきた
エネルギーを自由に掘り起こし、利用することを始めた。
それで出来上がったものが、今の文明である。
云々。

近年、地球温暖化、化石資源の枯渇、廃棄物の大量発生に対して「持続可能な
社会つくり」の議論が盛んに行われている。

このなかの、2050年までにエネルギー効率3倍増、自然エネルギー2倍増の
ビジョンなどは、今の文明の恩恵を享受をそのまま存続することが前提となっている
ような気がする。

この著者のいうように、宇宙・地球・生物の歴史を知り、我々とは、すなわち人間とは
何かを知ることが重要となっていると考える。

「始まりがあるものは、すべて終わりがある」。

この運命に向き合って、とりあえず、人類がどうすれば、この100年を生き残ることが
できるか真剣に考えなくてはならいようである。


96-07-20 「人月の神話」を読んで
 有名なソフトウエア・エンジニアリングに関するエッセイを読む機会をえました。
フレデリック・P・ブルックスJr著、滝沢徹・牧野祐子・富沢昇訳「人月の神話」アジ
ソン・ウエスレイ 1996.2発行です。

1.大きなプログラムシステム製品を開発する時に「人月」は仕事の大きさを測る
単位としては、疑うべき危険な神話である。人と月とが互いに交換できると考え,
月を減らそうとして、人を余計に投入することは効果的ではない。要員が増加すれ
ばするほど各作業者の間でのコミュニケーションを図るための時間が線形に増加す
ることになる。このため遅れているソフトウエアプロジェクトへの要員追加は更に
プロジェクトの進行を遅らせるだけという悲劇を生む。

2.高水準プログラミング言語と対話型のプログラム作成方法は、プログラム作成の
生産性の向上に役立っている。またチーフプログラマーを中心とする少数精鋭チーム
は、製品の完全性と生産性の向上を得ることができる。しかしながら、ソフトウエア
の開発において技術においても管理手法においても、それだけでこれからの十年間に
生産性や信頼性と容易性でも飛躍的な改善を一つでも約束できるような開発は一つと
してないと予測する(1986年)。

3.ソフトウエアエンジニアリングとは、
* システムに向けてプログラムセットをデザイン、実現する方法
* プログラムまたはシステムを、安定した、テスト済みで、文書完備のサポート
付きの製品になるようにデザイン、実現する方法
* 大量の複雑性に対して知的制御を維持する方法

4.ソフトウエア実体の本質は、データセットやデータ項目間の関係、アルゴリ
ズムや機能呼び出しなどが組み合わさったコンセプトで構成されている。
ソフトウエア構築において困難な部分は、この概念構造体の仕様作成とデザイン
およびテストにあって、表現することやその表現に忠実かをテストすることでは
ない。

5.ソフトウエア開発の生産性をあげるためには、
(1) このソフトウエア製品のコンセプトの完全性の実現。このため、だれか一人を
製品(主任)アーキテクトに任命し、アーキテクトが製品のあらゆる局面に
ついて利用者が知覚するコンセプトの完全性に責任を持たせる。
きわめて大きな製品開発の時は、主任アーキテクトは、システムをサブシス
テムにに分け、インターフェースを厳密に定義したうえで、各部分に担当ア
ーキテクトを配置する。
(2) 育成的構築モデルの採用。計画からプログラム作成・テストまでの局面を明確
に管理していくウオーターフォール構築モデルでなく、はじめに骨格を作り、
順次に詳細な機能を追加し、システムを育成していく。
(3) パッケージソフトをコンポーネントとして、購入してシステムを構築する。

コンセプトの完全性がシステムデザインにおいてもっとも重要な考慮点である。
一つの設計思想を反映していれば、統一性のない機能や改善点などは省いたシステム
の方が、優れていてもそれぞれ独立していて調和のとれていないアイデアいっぱいの
システムよりましである。 


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